合気道競技
合気道の乱取化の意義
柔術の稽古法について
今でこそ「柔道」といえばTV等でみる「柔道競技」が一般的ですが、古流の柔術は明治時代に嘉納治五郎が講道館で「柔道」を創始するまではどの流派も「形」による稽古が一般的でした。
合気道も「形」による稽古が一般的と言えますが、これは古流の柔術の稽古方法に分類されます。当協会では柔道のように近代的な乱取練習法を導入し、会員の実力向上を図っています。ここでは合気道の乱取練習ひいては競技につながることに触れながら、その効果と方法についてご説明いたします。
「乱取」の効果について
古流柔術の「形」の練習は約束稽古のため、双方または一方の自由意志を拘束して練習しますが、「乱取」は最終的には双方が自由意志で練習します。乱取を実際にやって見ると、自分がかけようとしても、相手が捌き、かわし、抵抗するので思うようにいかないことがよく分かります。当然、相手もかけられまいとし、そして自分がかける気持ちでいるからです。乱取の練習によって、形の稽古だけではなかなか会得しにくい勝機のつかみ方を練磨していくことができるのです。お互いがそうやって実力を競い合っていきます。これが切磋琢磨です。乱取そして競技には人をして向上心を強くする作用があるのです。富木先生はそのことを別の表現で説明しています。
今日「真剣」という意味をよく考えてみると、「かたちの真剣」と「態度の真剣」とがあることに気付きます。(中略)「形」だけの練習ですと、実戦的「かたちの真剣」はえられるようでも、全力をあげてたたかうという「態度の真剣」が失われます。
「乱取」の練習方法について
乱取競技は安全性の確保した一定のルールのもとでお互いが全力をあげて競いあいます。しかしながらその技術はやみくもに練習しても簡単には身につくものではありません。初心者がいきなり乱取をやってみても思うように上手くいかないことは容易に理解できることでしょう。乱取ができるようになるには必要な手順があり、それ相応の時間をかけて積み上げていくことが大事なのです。
つぎに乱取に必要な練習について簡単な紹介をします。※注
1. 単独運動
①運足、膝行、手刀動作
②受身(後方、側方、前方、前方回転)
自分ひとりで行う練習です。運足、手刀動作等の単独の基本的な動作で足の運び方、技に通じる手刀の基本的な動きを覚えます。
また、受身の練習を数多く行い、身体を守る技術を最初に身につけることが必要です。
2. 相対練習(基礎編)
①手刀合わせ
②7本の崩し
③掌底合わせ
今度は二人で行う練習です。単独運動で覚えた運足、手刀をお互いに合わせながら目付けと正中線を大事にして、自然と一足一刀の間合いを測れるようにします。7本の崩しは手刀合わせから一歩進めた練習です。取と受に分かれて取の手首を受が掴んで攻撃しようとしたところに崩す方法です。姿勢正しくお互いの掌底を合わせながら、腕力に頼ることなく自分の全体の力を有効に使う方法を学びます。これは相手を「押す」練習ではなく、「押されない」練習です。
3.技の練習
実際に乱取で使う技(乱取の基本の形17本)を覚えます。まずは形として十分に理合を正しく覚えます。
詳しい内容は「合気道の技」をご覧ください。
4.掛り稽古
受が取のあごをめがけて掌底を出していきます。それに対して体捌きをしてから基本の形17本をつかって相手を崩して掛けます。何度も何度も繰り返して練っていくことが大事です。
5.引立て稽古
掛り稽古から一歩進めた練習です。取と受け決めず、相手も技をかけてきます。お互いが技をかけ合いますが、相手の技が優れていたら無理な抵抗をすることなく技にかかります。
「引立て」の名称の通り、自分が相手の技をいかに引き立てるかが重要な練習方法です。
6.乱取稽古
引立て稽古から一歩進めた練習を方法です。
相手も本気で抵抗するところを崩してかける練習方法です。試合の一歩手前の練習方法です。
7.試合稽古
試合は実際に学んだことを「試し合う」稽古です。普段の練習とは違うのは勝敗がつくことです。特に大会となると通常とは全く違う環境になります、そのなかにあっても自分が積み重ねてきた実力を発揮できるよう精神力(平常心)も含めて相手と競い合います。自分の実力がいまどこにあるのか、単なる勝敗の結果だけでなく試合後にその内容を反省材料とすることが出来ます。その点で相手は自分を映す鏡と言えます。合気道に限らず、どの武道の競技でも相手を敬い、礼節を重んじることを重要視しているのはそのためなのです。
富木先生は競技化について特に青少年が行うことによる教育的効果についてつぎのように触れています。
教育の場として「競技の場」をもつことによって勇気、決断、敢闘、忍耐、公正、礼儀などの武道精神による人格形成が出来るのです。
普段の形から乱取に至る練習の過程において、単に武道としての合気道の実力が身につけられるばかりではなく、心身の健康とともに自ずと克己心を養うことにもつながっているのです。
※注
- 乱取の練習をすることは「形」稽古を軽視することではありません。「富木合気道とは」も併せてご参照ください。
- 乱取練習の主なもので、乱取をするには勿論これがすべてではありません。体捌きの練習等の部分練習、崩しと技、技と技の連携等の練習も大事です。
- いい姿勢を維持する等普段の練習から気をつけておくこともあります。
十分に繰返し練習をする私達自身の「姿勢」が大切といえるでしょう。
参考文献
「新合気道テキスト」稲門堂
「合気道教室」大修館